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「シビル・ウォー アメリカ最後の日」これは虚構か?アメリカ内戦映画

社員の日常

システム部の渡辺です。話題の「シビル・ウォー アメリカ最後の日」観てきました。

アメリカ内戦というディストピアを体験する

ほぼ現代、リアルな日常と全く変わらないのに「アメリカで内戦が起きている」。説明もなく、内戦が起きている設定で始まります。これはSFなんでしょうか? SFと言われて一般的に想像するSFジャンルとは違うけど、ある意味、正しいSFかもしれません。

主人公チームはジャーナリストで、大統領を取材するために、危険を承知で最前線激戦地のホワイトハウスへ向かいます。物語のあらすじは基本これだけで、その道中のドラマが強烈です。最後まで集中力が途切れない見事な演出でした。俯瞰した解説や別視点になるシーンはほぼなく、主人公チームが目にし、体験する断片的な情報が与えられるだけで、政治的なシーンはありません。私は、なんで内戦が起きてたのか最後までわかりませんでした。

パンフレットを読み直すと、劇中会話「さて、大統領になんてインタビューするよ?」にて

  • 大統領は3期目である (アメリカ人なら 3期連続は憲法22条違反であると気づく)
  • 大統領は FBI を解体した (独裁的、三権分立制を破壊した)
  • 米国民を空爆した

この会話をきくとアメリカ人なら「あぁ、そりゃ内戦にもなるわ」となるのでしょう。

A24史上最大規模&2週連続全米1位を獲得

テーマもクオリティもすごいし、何より今の現実の出来事「大統領選」というビッグ・イベントと重なることも踏まえれば話題性は抜群、こりゃみるっきゃない、となるでしょう。(米では 2024年4月12日公開) 4月12日といったら、当然、1度目の トランプ暗殺未遂事件 7月13日よりも前ですね。まさか現実の大統領選がこんなに血なまぐさいことになるとは映画を観ていたときには思わなかったことでしょう。
A24 については、知っている方は説明不要でしょうが、「あ、これ A24 の映画か、なら観るか」となるぐらいだいたい面白い映画を提供してくれるアメリカの配給会社です。

映画館で体験したいタイプの映画

みることで体験するような映画なので、映画館で観る方がおいしいです!
何が? というと日常感と戦争状態のギャップ、価値観のパラダイムシフトでしょうか。物語の軸となるジャーナリストチームは私たちと変わらない人種だと思えるのですが、死屍累々、日常風景に死体が転がり、目の前で人が死んでいき、自分も殺されかけ、というようなギリギリの体験をします。主人公チームに同調して感情移入してる中での、戦争の強烈な非日常体験がすさまじいです。

オススメする層

耐性があれば万人にオススメ

オススメしない層

リアルな殺人描写、死体表現に耐性がない人。グロはないけど超リアル

大統領選前だからこそ味わえるリアリティ

日本での公開は2024年10月4日、これを書いている今は 2024年11月の米大統領選前です。このシビル・ウォーの、今の現実とリンクする体験というのは今、この時しか味わえないと思いませんか? 今みた方がさらにのれる映画だと思います。

映画中の気になるキーワード

WESTERN FORCES 西部勢力

西部カリフォルニア、テキサスが「WF 西部勢力」という名前でホワイトハウスのあるワシントンDCに攻め入る図になります。カリフォルニアはブルーステイト、テキサスはレッドステイトなので、現実の 2党の対立ではない、ということなのでしょう。(監督インタビューでもそう書いてた)
映画中で「星条旗だけど ★は2つだけしかない」の旗が異常な違和感ででてきますが、この★はカリフォルニア州、テキサス州のことを指すようです。(↓ちょっと違う説明の埋め込みだけど)

[No Spoilers] I watched the trailer for A24’s upcoming 2024 film “Civil War.” The US flag with only 2 stars presented in the trailer looked very similar to the US government exile flag in THMT.
byu/SpringtrapDarkplague inTheHandmaidsTale

LOYALIST STATES 連邦政府

ワシントンDC を含む、アメリカ大統領が属する中央政府

ANTIFA (1度だけ言葉として出てきた)

主人公チーム、リー・スミスの過去の経歴の話の中だったかで、ちょっと聞き漏らしたのですが、ANTIFA という実団体名がでて、はっとしました。

特徴的な音楽演出

語れるほど詳しくないけど Portishead の DUMMY は聴いてました、そのPortisheadメンバー Geoff Barrow と、Ben Salisbury が音楽を担当してるので、選曲もしたのかもしれません。音楽演出にかなりのこだわりと意味を込めてるのは伝わったのですけど、その意味を正しく受け取るのは相当な知識がいるんだろうなぁと思いました。なんとなく「だんだんと年代が進んでるっぽいから、アメリカ文化史クロニクルってこと?」という気がしたけど、最後の曲だけ 1979 年に戻ってますね。

  • Lovefingers (1968) by Silver Apples
  • Rocket USA (1977) Suicide
  • Say No Go (1989) by De La Soul
  • Sweet Little Sister (1989) by Skid Row
  • Breakers Roar (2016) Sturgill Simpson
  • Dream Baby Dream (1979) Suicide

映画が時代遅れにならないようにわざと古い曲を選んだそうです (監督談)
この選曲の演出がすごくよかったです。だいたい不穏だけどノリの良い曲だったと思うのですが、目の前で銃殺される兵士と De La Soul のノリノリヒップホップ、目から入ってくる残虐映像と、耳から入っているヒップホップ、異常で狂気的な何かに「私は何を浴びせられてるんだろうという、ふぁぁぁ」となりました。
「はい、ここで一旦俯瞰してシーンを感じてくださいね」という声が聞こえてきそうな、そのリアリティに入り込んでた状態から一気に、これは信じられない現実、嘘の世界、ラジオの向こう側、カメラの向こう側であると一気に俯瞰状態にもっていかれる、特別な効果がありました。シニカルで斜めからの冷めた目線に戻されるような。

トリビア系

リー・スミスとジェシー・カレンは、ガーランドが尊敬する二人の戦場カメラマン、リー・ミラーとドン・マッカランに因んでいる。

リー・ミラー (アメリカ – 1907/04/23〜1977/07/21)

ファッションモデル -> 芸術家 -> 戦場写真家。第二次世界大戦中、ヴォーグ誌の戦争特派員として従軍し戦場や戦後のヨーロッパを撮影。

リー・ミラー – Wikipedia

ドン・マッカラン (イギリス – 1935/10/09〜)

Nikon に銃弾が当たったことで命が助かったことがあるという伝説をもつカメラマン (それは Nikon FE2 とは限らなそう) アフリカやアジア、北アイルランドの戦場を取材し、特にエイズやベトナム戦争に関する作品が高く評価されている。

ドン・マッカラン – Wikipedia

Nikon F camera is probably the only camera to save a life.

  • 監督ガーランドは、政治風刺漫画家の息子としてジャーナリストに囲まれて育った。そんなガーランドの「ジャーナリストへの賛辞」が表現されている。
  • インタビューを読むと、監督ガーランドは、多くの映画関係者と同じく反トランプ
  • 主人公チームは紙媒体メディア vs 資金のあるTVメディア(従軍してレポートしていたジャーナリストチーム) という対立構造でもあるらしい
  • アジア人を銃殺する例の恐ろしいシーンは、パンデミック時の反アジア感情オマージュっぽい
  • 劇中の恐怖のシーン、ミズーリ州の愛称「Show-Me State」。なんでそう呼ばれるてるのかはアメリカ人も本当にわからないらしい(!?!?)
  • 同じく劇中の恐怖のシーンの異様な赤いサングラスをかけていたのは、演じてたジェシー・プレモンスのアイディア。「この兵士は眼鏡かサングラスをかけるべきだ」

感想

「あのシーンすごくよかったなぁ・・・!」というのがたくさんあります。そういう映画が好きです。良いシーンが多数あります。

主人公ジャーナリストチーム4人ですが、

  • 歴戦のカメラマン「リー・スミス」(デジカメ一眼レフのなにか)
  • 戦場初参戦?リーに憧れる新米カメラマン「ジェシー」 (Nikon FE2 銀塩カメラで、途中で現像するシーンすらある)

という師弟関係が生まれて触れ合い「こりゃあ、ジェシーの成長を描いちゃうんだろうなぁ」と思いながらみてましたら、その予想を上回るすごい結末でした。
正確には覚えてませんが、こんな感じのことをジェシーがリーに言ってたと思います。「私が撃たれて死んだら、あなたはその瞬間も写真に撮る?」

カメラで撮影する行為は「シャッターチャンスを狙う」狩りの欲望があると思います。撃たれて死んでいく兵士達、人が息をひきとるその瞬間に手を差し伸べずにカメラで撮り続けるということに興奮する罪悪感、心を捨てるという要素が、カメラマン、表現者にはありますが、この映画はそこに触れています。
従軍カメラマンの一人が「おれより金になるすごい写真を撮るんじゃねぇぞ」みたいなことを言うシーンがあり、これは狂ってしまったジャーナリストの一番端にいる人の例でしょう。

最後にリーは「何か」を取り戻し、同じその瞬間にジェシーは逆に「何か」を捨て最後の撮影にのぞむ、そんな感じに受け取りました。

あと、老サミーとその血を一人掃除するリー「これまたキリスト教徒ならわかる何かなんでしょう?」ってみてました。今調べても特別に宗教的な意味があるのかわらかないけど。サミーすごくよかったです。