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デザイナーの目でみるパルテノン神殿(つづき)

社員の日常

デザイナーの呉です。気温がだいぶ下がってきました。コートをまだ出せていないため重ね着で凌いでいるのですがさすがに厳しくなってきました。
またかと思われると思いますが、前回尻すぼみになってしまったパルテノン神殿について引き続き書かせていただければと思います。

カリアティード

前回もお話ししたこちらの少女像。もともと多くの石像で飾られていたアクロポリスですが、度重なる戦争で原型をとどめている像はあまりありません。
そんな中でもこちらの少女像たちは6体すべて大きな破損もなく残ったため、貴重な美術品であると言えます。ただの石像ではなく屋根を支える柱であるため、より強固に作られたものと考えれます。

アクロポリスにあるのは複製ですが、本物はパルテノン神殿のすぐ麓にある「新アクロポリス博物館」にあります。
2009年に開館したこちらの博物館は、神殿で発掘された遺物が展示されています。パルテノン神殿とは打って変わって大変近代的な建築で、ギリシャの新旧を味わえるのでぜひ神殿と合わせて足を運んで欲しい場所です。

そしてこの博物館で1番人気だったのが、やはりこの少女像カリアティードです。近づいて見ると遠くで見るより大変大きいことに驚かされます。
ポイントはこの立ち方です! ギリシャ彫刻における特徴的な立ち方をしているのですが、何かおわかりいただけますでしょうか?
コントラポストと呼ばれるこの立ち方は、左右どちらかの足に体重をかけたポーズで、直立した立ち方と比べ、より人間らしい自然なポーズであるとされています。
写真を見ると片足だけ膝が突き出ていますが、これこそがその特徴となります。
感心するのはこの特徴が柱であるカリアティードに用いられている点です。ポーズは直立であった方が柱らしくしっかりと支えている印象を与えるはずですが、そうしなかった理由はきっと、これを作った職人は、頭で重い屋根を支えているとは見せたくないというこだわりがあったのだろうと思います。重いから重そうに見せるのではなく、重いはずなのに軽やかな姿勢を取るというこだわりこそが古代ギリシャの美学なのでしょう。

ペディメント

アクロポリスにあるエレクテイオン神殿の像について書きましたが、パルテノン神殿に施された彫刻のなかで傑作とされているペディメントです。
屋根の破風の部分を指すペディメントは本物はカリアティード同様に新アクロポリス博物館に展示されています。
神殿全体からみると小さく見えますが、やはり近づいてみるとなんとも大きく力強い彫刻です。
展示されているため近づいて見ることができますが、屋根にあった場合はどうしても遠くからしか見えなかったはずです。それなのに一切手を抜かないところが素晴らしい職人根性です。

破風という隙間とも言える箇所に施された彫刻ですが、この三角形の形も彫刻に活かされています。いくつもの神々の像が並ぶなかで、1番高さのある中央には地位の高い神が、端にいくほどそうでもない神が並んでいるそうです。
見事な建築然り、古代ギリシャにはすべてにきちんとした法則性と意味付けがあって感心します。そういえばこの配置はダヴィンチの最後の晩餐にも使われていますね。

神々の彫刻もただ並んでいるだけではなく、神話の一場面を表しています。このアテネ市を守るパルテノン神殿の1番正面に見える彫刻に相応しい神話とはどんなものか、ちょっと考えてみてください。
正解はアテネ市の守護神アテネの誕生シーンです。このわかりやすさがいいですよね。
ちなみにどんなシーンかというと、激しい頭痛に悩まされたゼウスが苦痛を和らげるために槌で頭を叩いたところ、中から武装したアテネが出てきたという物語です。
神話自体は恐ろしくわかりづらいですね。激しい頭痛持ちの方ならこのゼウスの気持ちがわかるのでしょうか。

反対側のペディメントには、アテネ市の守護神の座を争うアテネとポセイドンの姿が表現されています。左右対称的な配置が対立関係を表しているのがわかります。

フリーズ

ペディメントの次に見事な装飾は、ペディメントのすぐ下にあるフリーズと呼ばれる箇所です。
つらつらと書いたペディメントですが、場所が屋根であったために大きく破壊されており、実はほとんど原型をとどめていまません。
しかしこのフリーズは薄い透かし彫りであるため、比較的形が残っています。そのためか、アクロポリスのために作られた新アクロポリス博物館はこのフリーズを神殿に飾られていた当時と同じように見ることができる設計となっています。
ペディメントとは異なり、こちらは神話ではなくお祭りや戦争のシーンを表しているようです。なぜか人より馬の方がイキイキして見えますよね。職人も人間ばかり彫っていると飽きがくるものかもしれません。

最後に

以上がアクロポリスで見られるギリシャ美術になります。とはいえ美術品はほとんどが博物館の中で、実際のアクロポリスは整頓された瓦礫の山といった印象です。
しかし整頓されたというのがポイントで、素人である私には瓦礫にしかみえない大理石も、修復作業にあたっている方々にとっては貴重なパズルのピースなのでしょう。
修復中の神殿をよく見ると部分的に白くなっているのがわかりますでしょうか。もちろんこの白い箇所というのが修復によって新しく付け足された箇所なのですが、なぜ周囲の色に似せていないのかというと、
あえて修復箇所と、そうでない本来の大理石を使用している箇所とが区別できるようにしているそうです。
それは古代ギリシャ人職人さんへの遠慮だったり、また遠い先でもう一度修復する羽目になった未来の修復作業員さんへの配慮だったりするのでしょう。